事業承継は可能?医療法人やMS法人をM&Aで譲渡しよう

query_builder 2021/12/16
M&A・事業承継
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近頃は医療法人のM&Aが注目を集めています。

医療法人の譲渡先を探しているなら、今がチャンスかもしれません。
しかし、M&Aの手続きに詳しい経営者の方はそう多くないでしょう。
そこで今回は、医療法人のM&Aを検討する経営者の方が知っておくべき情報について解説してみました

M&Aを成功させたい経営者さまは、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

医療法人のM&A・事業承継

医療法人におけるM&A動向とそのメリット

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近年では中小サイズの医療法人によるM&Aのニーズが高まっています。
その背景には、後継者不足の問題があります。
帝国データバンクが発表した2020年の資料では、後継者不在状態の中小企業は65.1%でした。
対して、後継者不在状態の病院・医療を業とする法人は73.6%でした。
医療法人は、理事長が医師もしくは歯科医でなければなりません。
そのため、一般企業よりも後継者の獲得が難しくなっています。
くわえて、地域医療を支えていることが多いので、事業を継続させる必要性が高いです
このような理由から、M&Aを検討する中小医療法人は増加しています。

医療法人の設立と種類

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医療法人は一般法人とは異なり、会社法に基づいて成立するわけではありません。
医療法によって設立が認められます。
医療法人は医師・歯科医・法人が設立できる法人です。
しかし、自由に設立できるわけではありません。
自治体の許可・申請と「非営利性」が求められます。
つまり、営利企業は医療法人を設立できません。
この点はM&Aにおいても重要なポイントとなります。
ところで、医療法人にはどのような種類があるのでしょうか。
医療法人の種類もまた、M&Aの手法に関わるので、以下で簡単に説明します。

まず、法人設立の原資によって分類できます。
原資が社員による出資の場合「社団医療法人」、原資が寄付によって賄われるのが「財団医療法人」です。
「社団医療法人」は、原資の持分でさらに分類されます。
出資の割合に応じて持分を有しているなら「持分あり医療法人」、出資額を限度として持分を有しているなら「出資額限度医療法人」と呼ばれています。

「持分あり医療法人」は現在では設立できません
2007年に医療法が改正されたからです。
その代わりに基金制度が整備されました。
これによって設立された医療法人は「基金拠出型社団医療法人」もしくは「持分なし医療法人」と呼ばれています。
なお、特別な法の規定によって制定されるものが「特定医療法人」と「社会医療法人」です。
それぞれ原資によって、社団と財団の場合があります。

また、医療法人関係には「メディカルサービス法人(以下MS法人)」という法人があります。
これは法令的には医療法人ではありません。
ですが、MS法人は特定の医療法人の運営に関するサポートを目的として作られることが多く、M&Aではこの会社の対価も重要なポイントとなります

医療法人のM&Aに使われる手法

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医療法人のM&Aで使われる手法は主に5つです。
それぞれの手法をみていきましょう。

売り手となる医療法人の持分を、買い手側が入手すれば、経営権が得られます。
これを「持分譲渡」と呼びます。
この方法は一般的な株式譲渡と、ほとんど変りはありません。
ただし、持分譲渡は医療法人に持分がなければできません。
そのため、持分あり医療法人のM&Aに限り使える方法です。
では、持分なしの医療法人や財団医療法人はどのようにM&Aをすればよいのでしょうか。
この場合には、医療法人を運営している「社員・評議員・役員の入れ替え」をします
これによって買い手側の人間を運営に参加させ、議決権の半分以上を手に入れれば、医療法人の運営ができるようになります。
なお、この方法によって席を譲る社員・評議員・役員には、退職金という形で譲渡費用を支払うのが一般的です

医療法人の種別に関係がない手法としては「合併」があります。複数の医療法人を1つにまとめるM&Aの手法です。
合併後に一方の法人が解散する「吸収合併」と、新しい法人を立ち上げる「新設合併」があります。
合併とは逆に、医療法人が担う事業の一部分を、ほかの医療機関に継承もしくは独立させることを「分割」と呼びます。
これは事業の一部を売買するともいえる方法です。
例えば、病院内の診療科の一部門、あるいは複数ある病院の1つを売却するときに使われます。

譲渡するべき内容を細かく設定したい場合には「事業譲渡」が最適です。
事業譲渡では権利義務を個別に譲渡することが可能です。
ただし、手続きが複雑になりやすいので注意してください。
もし、M&Aの対象にMS法人が含まれている場合は、譲渡価格にMS法人の価値を含めて計算するのが一般的です。
また、経営権を実際に移行するために、譲渡対価の一部を役員退職金として支払い、退任を求めることが多いです。

医療法人がM&Aによって事業承継するメリット

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買い手側のメリットとしては、病床確保があげられます。
病院の経営は、どれだけ多くの病床と人員を確保できるかに左右されやすいです。
しかし、病床の数は自治体の医療計画によって、適正配置がなされています。
病床数が上限に達している場合には、どれだけ準備しようとも、病床拡大ができません。
ですが、M&Aであれば、すでに稼働している病床を入手できます。
実際に働いている医師や看護師といった専門的な人材を確保することも難しくありません。
また、M&Aで医療法人を手に入れれば、新たに医療法人設立の手続きや認可を受けなくてよいので、結果として早く営業を開始できます。
※代表者変更など各種手続きは必要になってきます。

売り手側のメリットとしては、地域医療の継続や、職員の雇用の確保などがあげられます。
M&Aは中小医療法人の後継者不足の問題を解決してくれる手段であるともいえるでしょう。
M&Aで法人を手放せれば、出資者に持分利益を還元することもでき、創業者利益の確保にも役立ちます

医療法人の譲渡価格

医療法人の譲渡価格の算定方法と節税スキーム

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医療法人の譲渡価格は4つの方法で決められることが多いです。

1つ目はインカム・アプローチです。
これはM&Aの対象となる医療法人の収益力から譲渡価格を決める方法として知られています。
将来的なキャッシュフロー予測から現在価値を読み取るDCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)は、大企業のM&Aでよく使われています。

2つ目はマーケット・アプローチです。
M&A対象企業の同業他社の時価総額や、類似するM&A事例から企業価値を評価します。

3つ目はコスト・アプローチです。
M&A対象企業の簿価や時価純資産を基準にして、企業価値を推し量る客観的な方法です。
どれも、優位的な面がある有名な手法ですが、実務上ではそれほど使われることはありません。
実務では「年倍法(年買法)」と呼ばれる手法がよく使われています。

年倍法とは

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4つ目の方法である年倍法の考え方は、法人の価値は純資産の時価としながら、営業権の評価をするというものです。
矛盾しかねない2つの考えのバランスを取って、現実的な評価額をつける方法が、年倍法であるといえます。
年倍法では、純資産をコスト・アプローチで推定し、インカムアプローチを使って将来的な収益価値を計算するのが一般的です。
しかし、その考え方は理論的というよりも、経験則に基づいている面が強く、適切な答えを出すために、さまざまな計算手法が用いられることもあります。

実務的な計算のなかで「株式価値」=「時価純資産+(修正営業利益×数年分)」という式は生まれました。
この式では、向こう数年分の利益をのれん代と見做すことで、評価のバランスを取っています。
ただし、年倍法の考えはM&Aにかかわる者それぞれによって異なり、計算式も多数存在しています。
その時々に応じて、適正だと思われる形に計算式を修正して使うとよいでしょう。
例えば、医療法人は倒産リスクが低く、経営が安定しやすい法人なので、その点を評価し「M&A対象法人の価値」=「時価総資産+(修正営業利益× 3-5年分)」としてもよいでしょう。

役員退職金による節税スキームとは

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医療法人のM&Aでは持分譲渡による譲渡益は、所得として課税されます。
税率は20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)です
例えば、1億円の譲渡益がある場合には、約2,000万円ものお金が税として徴収されます。
そこで、税を軽くするために対価の一部を退職金として支払うことが一般的に用いられています
なぜ、退職金だと税が軽くなるのでしょうか。
それは持分の譲渡所得と退職所得では、税金の計算方法が違うからです。

持ち分の譲渡益は、「売却収入-持分簿価額または売却収入の5%(高い方の額面を選ぶ)-売却経費」です。
これに対して20.315%の税率で税が徴収されます。
なお、売却収入とは、持分売却によって受け取った対価のことです。

退職所得の税額は下のように計算します。
まず退職所得を計算します。退職所得の額は「(退職金総額-退職金控除)×2分の1」です(*)。
ここで使う退職金控除額は、勤続20年以下では「40万円×勤続年数」、勤続年数が20年を超えているなら「70万×勤続年数-600万円」、「退職金総額が80万円未満の場合は、控除額は80万円」です。
次に退職所得に課税される税額を求めます。
課税額は「退職所得×税率-控除額」です。
この計算に使う税率と控除額は、退職所得によって以下のように決められています。

退職所得 課税率 控除額
0円から195万円未満 15.105% 0円
195万円以上330万円未満 20.210% 99,548円
330万円以上695万円未満 30.420% 436,478円
695万円以上900万円未満 33.483% 649,356円
900万円以上1,800万円未満 43.693% 1,568,256円
1,800万円以上4,000万円未満 50.840% 2,854,716円
4,000万円以上 55.945% 4,896,716円

以上のように税額の計算式が違うため、一定金額までは持分譲渡の対価を退職金で受け取る方が、税金の総額が少なくなります。
では、実際に計算してみましょう。

売却額5億円、持分簿価5,000万円、売却経費2,500万円とすると、持分譲渡による税額は8,633万8,750円です。
一方、退職金として4,000万円(勤続30年)支払ったとすると、退職所得は1,250万円です。
課税額は389万3,369円となります。
持分譲渡による所得税額は7,821万2750円です。
比較すると、退職金として4,000万円払った方が423万2631円の得になります。
なお、この計算では計算をシンプルにするため端数処理をしていません。
そのため、実際の税額とは多少異なります。

この節税スキームは買い手にも大きな利益をもたらします。
なぜなら、退職金の支払いを損金として算入できるからです。
上述のように4,000万円退職金として支払った場合、実効税率(法人住民税・地方法人税・法人事業税を合わせたもの)が33.6%であるとするなら、1,344万円の減税効果が見込めます。

※役員としての勤務年数が5年を越えている場合
参考HP:国税庁

医療法人のM&Aにおける一般的な手続きの流れ

M&Aの手続きと流れ

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M&A手続きに入る前には、医療法人を譲り渡す必要があるのかをよく検討しましょう。
その上で、医療法人の価値を再検討しましょう。
特殊な医療技術やノウハウといった強みはリスト化して整理します。
リスト化を済ませたら、M&Aの仲介会社を選択します。
M&Aは手続きが煩雑なうえ、交渉期間が短くありません。
長引くことも少なくありません。
また、交渉相手を見つけることが非常に困難です。
そのため、M&Aを検討している場合には、仲介会社に依頼するのをおすすめします。


関連記事:M&A仲介会社の選び方は会社名よりも担当者個人との相性が大切!

医療法人のM&A手続きは仲介会社の選択から始まります。M&A仲介会社に連絡し、担当者によるヒアリングを受けてください。
ヒアリングで尋ねられる内容は、譲渡予定の医療法人の、財務内容や運営実態、あるいは譲渡する際の希望条件などです。
話し合いを通して、仲介会社が気に入ったなら「アドバイザリー契約」を締結し、仲介業務を委託します。
アドバイザリー契約が済むと仲介会社は、譲渡予定法人の決算資料・財務資料・事業資料を元にして「ノンネームシート」や「Teaser(ティーザー)」と呼ばれる資料作成をし、M&Aの候補を探す「マッチング」の段階に移行します。

「ノンネームシート」や「(Teaser(ティーザー)」は、M&Aを希望している医療法人が特定できない程度に、財務や事業内容をまとめた資料です。
交渉を希望する企業が現れた場合には「IM(インフォメーション・メモランダム)」と呼ばれるより詳細な企業情報が書かれた資料が開示されます。
この資料の開示には、譲渡を希望している法人の許可が必要です。
M&Aを前に進めたいという双方の同意が得られたなら、当事者が顔を合わせての「交渉」の段階に移ります。

交渉では一般的に「トップ面談」が行われます。
事業や経営についての質問や、希望する条件などを直接に尋ねられる場です。
気になる事柄があるなら、全て質問するようにしましょう。
ただし、不利な情報に対して説明を拒んだり、嘘を話してしまうと、後に交渉決裂の原因となる場合があります。
隠しておきたい情報を尋ねられた場合でも、なるべく誠実に対応するようにしましょう。
条件が整ったなら「基本合意書の締結」をします。
基本合意書は一致した交渉内容や譲渡・売却にかかわる条件などを記した書類です。
この書類では、一般的に譲り渡し法人に対する調査活動(デューデリジェンス)をする権利と、独占交渉権についての取り決めが示されることが多いです。
調査を済ませて問題がなければ「最終契約書の締結」をします。
なお、契約書の名目は、どのような方法でM&Aをしたかによって変化するので注意しましょう。
分割なら「分割契約」、事業譲渡なら「事業譲渡契約」との名目になります。


関連記事:会社譲渡・事業承継の手続きの流れと費用を完全解説。全体のイメージが掴めます。

まとめ

医療法人のM&Aを成功させるには仲介会社との連携が大切!

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近頃は医療法人のM&Aが注目を集めています。
医療法人の譲渡先を探しているなら、今がチャンスかもしれません。
しかし、M&Aの手続きに詳しい経営者の方はそう多くないでしょう。
そこで今回は、医療法人のM&Aを検討する経営者の方が知っておくべき情報について解説してみました。
M&Aを成功させたい経営者さまは、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

安心して会社譲渡・事業承継を行うには、相性の良いM&A仲介会社に依頼することが重要になってきます。

弊社もM&A支援機関として、中小企業さまの会社譲渡・事業承継のご支援をさせて頂いておりますので、お気軽にお電話もしくはお問い合わせフォームよりご連絡頂けますと幸いです。

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